「失業保険を一度もらうと、次はもらえなくなるのだろうか」
退職を控えて調べているうちに、この疑問にたどり着いた方は多いはずです。結論を先にお伝えすると、失業保険は一度もらっても、条件を満たせば何度でも受給できます。ただし、それまで積み上げてきた雇用保険の加入期間はリセットされます。
このリセットが厄介なのは、受け取った瞬間には損失を実感できない点にあります。影響が表面化するのは、次に離職したときです。10年勤めて得られるはずだった給付日数が、90日まで縮んでいた、というかたちで初めて気づくことになります。
この記事では、失業保険を一度もらうと具体的に何が起きるのか、2回目はいつからもらえるのか、そして「あえてもらわない」判断が有利になるケースまで整理します。
失業保険を一度もらうとどうなる?【結論】
最初に、全体像を押さえておきましょう。
| 項目 | 一度もらうとどうなるか |
|---|---|
| 雇用保険の加入期間 | ゼロにリセットされる |
| 受給できる権利 | 失われない(回数制限なし) |
| 次回の給付日数 | 再就職後の加入期間で計算し直し |
| 2回目の受給条件 | 自己都合なら新たに12ヶ月以上の加入 |
| 2回目の給付制限 | 原則1ヶ月、条件により3ヶ月 |
「もらうと次はもらえない」わけではありません。失われるのは権利ではなく、これまでの積み上げです。
雇用保険の加入期間がゼロにリセットされる
失業保険(雇用保険の基本手当)の給付日数は、雇用保険に加入していた期間の長さで決まります。加入期間が長いほど給付日数は多くなり、受け取れる総額も大きくなります。
しかし一度受給すると、それ以前の加入期間は次回の判定に使えなくなります。
たとえば同じ会社に10年勤めて退職し、失業保険を受給したとします。その後に再就職して2年で辞めた場合、2回目の給付日数を決めるのは「2年」であって、「12年」ではありません。最初の10年は次回の計算に一切反映されないということです。
給与額の実績は引き継がれない
もう1点、見落とされやすいのが基本手当日額の計算です。
基本手当日額は、離職前6ヶ月の賃金をもとに算出されます。加入期間だけでなく金額の計算基礎も直近の勤務先の給与で決まるため、再就職先の年収が下がっていれば、2回目の受給額も下がります。
「以前は高い給与だったから」という実績は、次回には反映されません。
リセットされるのは加入期間で受給の権利は残る
誤解が多いのはここです。リセットという言葉から「二度と受給できない」と受け止めてしまう方がいますが、そうではありません。
失業保険の受給に回数制限はなく、条件を満たすたびに何度でも受け取れます。消えるのは、次に受給資格があるかどうかを判定するときに使える「過去の加入期間」だけです。
言い換えれば、リセットされるのはカウンターであって、制度を使う権利そのものではありません。
1日分の受給でもリセットは同じ
「満額もらったわけではないから、少しは残るのでは」と考える方もいますが、加入期間のリセットは受給日数に比例しません。
90日分をすべて受け取った場合も、1日分だけ受け取って再就職した場合も、それ以前の加入期間の扱いは同じです。所定給付日数を残したまま就職しても、使わなかった分が翌回に繰り越されることはありません。
再就職手当を受け取った場合も同様
早期に再就職して再就職手当を受け取ったケースも、加入期間はリセットされます。
再就職手当は「基本手当の残日数分を前倒しで受け取る」性質の給付であるため、基本手当を受給したのと同じ扱いになると理解しておいてください。
リセットの分かれ目は受給資格の決定を受けたか
ここがこの記事でもっとも重要な部分です。
ネット上には「1円でも受け取ったらリセット」という説明と、「受給資格が決まった時点でリセット」という説明が混在しています。この違いは、実際の判断を大きく左右します。
制度上、次回の受給資格を判定する際に算入されないのは、過去に受給資格を取得した離職日以前の加入期間です。つまり基準となるのは、実際に振り込まれたかどうかではなく、ハローワークで受給資格の決定を受けたかどうかです。
手続きをしなければ前の期間は引き継げる
この仕組みには、裏返しの意味があります。
離職後にハローワークで手続きをしていなければ、受給資格は取得していません。この状態で1年以内に再就職して再び雇用保険に加入すれば、前職までの加入期間は次回に通算されます。
10年勤めた会社を辞め、転職先が決まっているのに「せっかくだから申請だけしておこう」と手続きをしてしまうと、その10年を失うことになります。転職先が決まっている、あるいは短期間で決まる見込みがあるなら、手続きをしないという選択が合理的な場面は確実に存在します。
私が採用の現場で見てきた限り、この点を知らないまま受給申請をしている方は相当数います。数万円の給付と引き換えに、次回の給付日数が30日分減る可能性がある、という構図です。
迷ったらハローワークで確認する
とはいえ、通算されるかどうかは離職日、再就職日、加入状況によって個別に判断されます。
「1年以内の再就職」といっても、雇用保険の被保険者資格を取得しない働き方では通算の対象になりません。自分のケースが該当するかどうかは、必ず管轄のハローワークで確認してください。相談自体は無料であり、受給申請をしなければ受給資格の決定にはなりません。
失業保険を一度もらうと失う3つのもの
リセットの中身を、具体的な損失として分解します。
「なんとなく損する」という理解では判断できません。数字で押さえておきましょう。
①給付日数が短くなり受給総額が減る
もっとも直接的な影響が、次回の所定給付日数の減少です。
自己都合退職の場合、所定給付日数は加入期間に応じて次のように定められています。
| 雇用保険の加入期間 | 所定給付日数 |
|---|---|
| 1年未満 | 受給資格なし |
| 1年以上10年未満 | 90日 |
| 10年以上20年未満 | 120日 |
| 20年以上 | 150日 |
加入期間が10年を超えるかどうかで、30日分の差が生まれます。
加入10年と加入1年の給付日数の差
具体例で考えてみます。
新卒から10年勤めたAさんが退職し、失業保険を受給したとします。このとき所定給付日数は120日です。その後に転職し、3年勤めて再び自己都合で退職しました。
2回目の判定に使えるのは「3年」だけなので、所定給付日数は90日です。もしAさんが1回目に受給していなければ、通算13年となり120日が適用されていました。
差は30日分です。
受給総額でいくら変わるかの試算
これを金額に換算します。
基本手当日額を5,000円と仮定すると、30日分の差は15万円です。日額6,000円であれば18万円、7,000円であれば21万円になります。
1回目に受け取った金額が仮に45万円(90日分)だったとしても、2回目で15万円以上を失っているなら、実質的な手取りはその分目減りしていることになります。
さらに、加入期間が20年を超えるかどうかの境目では150日と120日の差が生じるため、勤続の長い方ほど失うものは大きくなります。
②次の受給まで最低12ヶ月の加入が必要
2つ目は、時間の制約です。
一度受給すると、次に失業保険を受け取るには新たに加入期間を積み直す必要があります。自己都合退職の場合、離職日以前の2年間に通算12ヶ月以上の被保険者期間が必要です。
つまり、再就職してから12ヶ月経たないうちに再び離職すると、失業保険は受給できません。
短期離職を繰り返すと無給の期間ができる
転職して間もない時期は、職場環境が合わずに早期離職を検討する場面もあります。しかし直前に受給していると、この時期に離職しても給付を受けられません。
再就職から半年で辞めた場合、加入期間は6ヶ月しかなく、自己都合退職では受給資格を満たさないためです。セーフティネットが機能しない期間が生まれる点は、受給を決める前に理解しておくべきリスクです。
「1ヶ月」の数え方にも条件がある
なお、被保険者期間の1ヶ月としてカウントされるのは、賃金支払いの基礎となる日数が11日以上ある月です。労働時間が80時間以上であれば1ヶ月として算入される取り扱いもあります。
週の勤務日数が少ない働き方の場合、在籍12ヶ月でも加入期間として12ヶ月に満たないケースがあるため注意してください。
③2回目は給付制限が3ヶ月になる場合がある
3つ目は、待たされる期間が延びる可能性です。
自己都合退職の給付制限期間は原則1ヶ月ですが、離職日からさかのぼって5年以内に、自己都合退職を理由とする受給資格決定が2回以上ある場合、3回目以降は給付制限が3ヶ月となります。
短いスパンでの受給は後の選択肢を狭める
このルールがあるため、数年おきに自己都合退職と受給を繰り返すと、加入期間がリセットされるだけでなく、次に受け取るまでの待ち時間も長くなります。
給付日数が減り、受給までの期間が延び、その間の生活費は自己負担になる。この3つが重なると、目先の受給額を確保したことが結果的にマイナスになる場面が出てきます。
なお、会社都合退職や特定理由離職者としての受給は、この回数のカウントに含まれません。
一度もらった後、次はいつからもらえる?
ここからは、実際に受給したあとの話です。
「一度もらったら何年空ければいいのか」という疑問は多いのですが、正確には年数ではなく、再就職後の加入期間で決まります。
自己都合退職なら再就職から12ヶ月以上
一般の自己都合退職で失業保険を受給するには、離職日以前の2年間に、被保険者期間が通算12ヶ月以上必要です。
一度受給していれば、それ以前の期間は算入されません。したがって、再就職して雇用保険に加入した月から数えて12ヶ月以上経たなければ、次の受給資格は得られません。
「1年後」ではなく「加入12ヶ月後」
ここで混同しやすいのが、在籍期間と被保険者期間の違いです。
前述のとおり、被保険者期間として1ヶ月とカウントされるのは、賃金支払いの基礎日数が11日以上ある月です。試用期間中に雇用保険へ未加入だった、あるいは月の途中入社で初月が11日に満たなかった、といったケースでは、在籍1年でも12ヶ月に届かないことがあります。
自分の加入状況は、給与明細の雇用保険料の控除欄で確認できます。転職直後は控除が始まっているかを一度チェックしておくと安心です。
2年間という枠にも注意
条件は「離職日以前の2年間に通算12ヶ月以上」です。
再就職後に休職や離職を挟んで加入期間が飛び飛びになると、直近2年の枠内で12ヶ月を確保できない場合があります。転職と離職を短いスパンで繰り返している方は、この点も併せて確認してください。
会社都合・特定理由離職者なら6ヶ月以上
一方、倒産や解雇などの会社都合退職(特定受給資格者)や、病気・介護など正当な理由がある自己都合退職(特定理由離職者)に該当する場合は、条件が緩和されます。
この場合は、離職日以前の1年間に被保険者期間が通算6ヶ月以上あれば受給資格を得られます。
再就職先の倒産や解雇なら半年でも受給できる
たとえば失業保険を受給したあとに転職し、その転職先が8ヶ月後に事業縮小で人員整理を行ったとします。自己都合の基準では12ヶ月に届きませんが、会社都合であれば6ヶ月以上を満たすため受給が可能です。
再就職して間もない時期に会社都合で離職した場合、「まだ1年経っていないから無理だ」と諦めてしまう方がいますが、必ずハローワークに確認してください。
失業保険の受給回数に上限はない
改めて確認しておくと、失業保険の受給回数に制限はありません。
条件を満たしていれば、2回目でも3回目でも受け取れます。「前回もらったから今回は対象外」ということはなく、審査で不利に扱われることもありません。
ただし、次に説明する給付制限のルールを通じて、短期間での繰り返しには一定の抑制がかかる設計になっています。
2回目の給付制限期間はどうなるか
2回目以降の受給で気になるのが、待たされる期間です。
会社都合退職や特定理由離職者に該当する場合、給付制限はありません。待期期間7日が満了した翌日から支給対象期間に入ります。これは回数に関係なく同じ扱いです。
問題は自己都合退職の場合です。
過去5年以内の自己都合退職の回数で決まる
自己都合退職の給付制限期間は、直近5年間の受給履歴によって変わります。
| 過去5年以内の自己都合退職による受給資格決定 | 給付制限期間 |
|---|---|
| 1回以下 | 原則1ヶ月 |
| 2回以上 | 3ヶ月 |
つまり、5年以内に自己都合での受給資格決定が2回ある状態で3回目を迎えると、給付制限は3ヶ月になります。
このカウントに含まれないのは、会社都合退職や特定理由離職者としての受給です。過去の受給が会社都合によるものであれば、次回が自己都合でも原則1ヶ月が適用されます。
給付制限を解除する方法は2回目以降も使える
なお、給付制限がかかるケースでも、公共職業訓練や対象の教育訓練を受講すれば制限は解除されます。この仕組みは受給回数に関係なく利用できます。
2回目の受給でスキルアップを兼ねて訓練を受けるという選択は、給付開始を早めつつ再就職の武器を増やせるため、合理性の高い選択肢です。
一度もらうと年金・扶養・再就職手当はどうなる?
失業保険の影響は、雇用保険の枠内にとどまりません。
受給によって別の制度の給付が止まったり、負担が増えたりする場合があります。ここを確認せずに受給を決めると、手元に残る金額が想定より小さくなります。
65歳未満は年金が支給停止になる場合がある
特別支給の老齢厚生年金を受給している65歳未満の方が失業保険を受け取ると、年金は支給停止となります。
これは併給調整と呼ばれる仕組みで、両方を同時に受け取ることはできません。ハローワークで求職の申込みをした月の翌月から、受給期間が終了した月まで年金が止まります。
どちらが有利かは金額で判断する
停止されるのは年金であり、失業保険ではありません。したがって、どちらの金額が大きいかを比較して判断することになります。
一般的には、基本手当日額が高い方は失業保険を優先したほうが有利になりますが、年金の停止期間が長引くと逆転する場合もあります。年金額は年金事務所、基本手当日額はハローワークで確認できるため、両方の見込み額を出したうえで比較してください。
なお、65歳以降に受け取る高年齢求職者給付金は、老齢厚生年金と併給できます。65歳の前後で扱いが変わる点は押さえておきましょう。
配偶者の扶養から外れる可能性がある
退職後に配偶者の健康保険の被扶養者になることを考えている方は、失業保険の受給額に注意が必要です。
失業保険は非課税所得のため、所得税や住民税の課税対象にはなりません。しかし、健康保険の被扶養者の判定においては収入として扱われます。
基本手当日額3,612円が扶養の分かれ目
被扶養者の年収要件は原則130万円未満です。失業保険の場合、日額をもとに年収換算して判定されます。
130万円を360日で割ると3,611円ほどになるため、基本手当日額が3,612円以上であれば扶養に入れない、という基準が用いられています。60歳以上や障害のある方は要件が180万円未満となり、判定基準の日額も変わります。
給付制限期間中は扶養に入れる場合がある
実務上は、給付制限期間中は失業保険の収入がないため被扶養者として認められ、支給が始まる時点で扶養から外れるという運用が一般的です。
ただし判定基準は健康保険組合ごとに異なります。加入手続きの前に、配偶者の勤務先を通じて組合の取り扱いを確認してください。扶養から外れる期間は、国民健康保険と国民年金に自分で加入することになり、その分の保険料負担が発生します。
再就職手当を受けても加入期間はリセットされる
前半でも触れましたが、重要な点なので改めて整理します。
再就職手当は、所定給付日数を3分の1以上残して安定した職業に就いた場合に支給される給付です。基本手当をほとんど受け取らずに再就職した場合でも、この手当を受給すれば加入期間はリセットされます。
それでも再就職手当は使う価値がある
とはいえ、再就職手当を避けるべきという話ではありません。
そもそも失業保険の受給手続きを済ませている時点で、加入期間のリセットは避けられません。手続きを済ませたうえで早期に就職が決まったなら、再就職手当を受け取らない理由はありません。
判断が分かれるのは「受給手続きをするかどうか」の段階であって、手続き後に手当を受け取るかどうかではない、と理解してください。
健康保険・住民税の負担も併せて確認する
見落とされやすいのが、受給期間中の固定支出です。
退職後は、健康保険を任意継続するか国民健康保険に加入するかを選ぶ必要があります。いずれも保険料は前年の収入をもとに算定されるため、離職直後は負担が重く感じられます。
住民税も同様に前年の所得に対して課税され、退職後は自分で納付することになります。
軽減制度を確認しておく
会社都合退職や特定理由離職者に該当する場合、国民健康保険料の軽減措置を受けられることがあります。前年給与所得を大幅に減額して算定する仕組みで、負担がかなり変わります。
住民税についても、一括での納付が難しい場合は分割納付の相談が可能です。受給額だけでなく支出側も含めて見通しを立てておくと、受給の要否を冷静に判断できます。
失業保険をあえてもらわない方がいいケース
ここまで見てきたとおり、失業保険は「もらえるならもらう」が常に正解とは限りません。
受給によって失うものが、受け取る金額を上回る場面があります。判断が分かれる代表的な4つのケースを整理します。
1年以内に再就職する見込みがある
もっとも典型的なのがこのパターンです。
離職後にハローワークで受給資格の決定を受けていなければ、それまでの加入期間は失われません。1年以内に再就職して再び雇用保険に加入すれば、前職までの期間は次回の判定に通算されます。
転職先が決まっているなら手続きしない選択もある
すでに転職先が決まっていて、間が数週間しか空かないというケースで受給申請をする意味はほとんどありません。
待期期間7日と給付制限を経る前に就職してしまえば、受け取れる基本手当はごくわずかか、まったく発生しません。それでも受給資格の決定を受けていれば、加入期間はリセットされます。
数日分の給付、あるいはゼロと引き換えに、10年分の積み上げを手放すことになります。
「とりあえず申請」がもっとも損をする
私が採用の現場で候補者と話していて、意外に多いのがこの「とりあえず申請しておいた」というケースです。
退職手続きの案内に離職票の説明があるため、もらったらハローワークへ行くものだと考えてしまうのは自然です。ただ、次の職場が決まっている、あるいは短期間で決まりそうな状況なら、いったん立ち止まって計算する価値があります。
勤続年数が長く加入期間を温存したい
加入期間が10年、20年に近づいている方は、判断がより重要になります。
所定給付日数は10年と20年で区切られており、この境目を越えるかどうかで30日分の差が生まれます。加入期間9年で受給してしまうと、次にこの区切りへ到達するには再就職後に10年かけ直す必要があります。
キャリア後半ほど温存の価値が高い
一般に、年齢が上がるほど転職活動に要する期間は長くなる傾向があります。
将来的に長い受給期間が必要になる可能性を考えれば、今の短期的な受給よりも、加入期間を残しておく判断が合理的になる場面は少なくありません。特に、会社都合での離職リスクがある業界に身を置いている方は、この視点を持っておくと備えになります。
年金や扶養への影響が受給額を上回る
前章で触れた併給調整と扶養の問題も、受給しない判断につながります。
特別支給の老齢厚生年金を受け取っている方は、失業保険の受給中は年金が止まります。年金の月額が失業保険の見込み額を上回るなら、受給しないほうが手取りは多くなります。
扶養についても同様です。基本手当日額が扶養の基準をわずかに超える程度であれば、受け取れる給付より、国民健康保険料と国民年金保険料の負担のほうが大きくなる場合があります。
比較するのは総額ではなく差額
判断のコツは、「失業保険でいくらもらえるか」ではなく、「受給する場合としない場合で、手元に残る額がいくら違うか」で見ることです。
受給額から、止まる年金額、追加で発生する保険料、失う給付日数の価値を差し引いて、それでもプラスなら受給する。この計算を一度しておけば迷いません。
もらう・もらわないの判断フロー
最後に、判断の順序を整理します。上から順に確認してください。
- 転職先が決まっているか。決まっていて空白が1年以内なら、受給しない選択が有利になりやすい
- 現在の雇用保険の加入期間は何年か。10年または20年の区切りに近いなら温存を検討する
- 65歳未満で年金を受給しているか。該当するなら年金額と基本手当日額を比較する
- 配偶者の扶養に入る予定があるか。基本手当日額が基準を超えるなら追加負担を試算する
- 上記を踏まえても受給がプラスなら、離職票が届き次第すぐ手続きする
1から4に該当しないなら、迷わず受給してください。失業保険は再就職までの生活を支えるための制度であり、必要な人が使うべきものです。
失業保険を一度もらう前に確認したい注意点
受給すると決めた場合にも、押さえておきたい点があります。
受給期間は離職日の翌日から原則1年
失業保険を受け取れる期間は、離職日の翌日から原則1年間です。
所定給付日数が残っていても、この1年を過ぎると受け取れなくなります。手続きが遅れるほど、実際に受け取れる日数は減っていきます。
手続きの遅れが受給日数を削る
たとえば所定給付日数が150日ある方が、離職から8ヶ月後に手続きを始めたとします。待期期間と給付制限を経ると、残りの受給期間内に150日分を消化しきれません。
受給すると決めたなら、離職票が届き次第すぐに手続きするのが鉄則です。
働けない期間は受給期間の延長手続きを
病気やケガ、妊娠・出産・育児、家族の介護などで30日以上働けない状態が続く場合は、受給期間の延長手続きができます。
延長できる期間は最長3年で、本来の1年と合わせて最大4年まで受給期間を確保できます。
延長手続きは受給資格の決定ではない
延長手続き自体は、受給資格の決定を受ける行為ではありません。
働ける状態になってから改めて求職の申込みをするまで、加入期間がリセットされることはありません。すぐに働けない事情がある方は、権利を失わないよう早めに手続きしておいてください。
再就職の申告漏れは不正受給になる
受給中に就職やアルバイトをした場合は、必ず失業認定申告書に記載して申告します。
申告を怠って受給を続けると不正受給と認定され、支給停止に加えて、受給額の返還と、その額の2倍に相当する納付を命じられる場合があります。
判断に迷ったら申告する
内定が出た段階、単発の仕事を受けた段階など、申告すべきか迷う場面はあります。
迷ったときは申告してください。申告したうえでその日の給付が出ないほうが、あとから返還を求められるより損失は圧倒的に小さくなります。
受給を先送りにしても加入期間は増えない
最後に、誤解しやすい点をひとつ。
「受給を遅らせれば加入期間が積み上がるのでは」と考える方がいますが、加入期間が増えるのは雇用保険に加入して働いている期間だけです。離職後に手続きを先送りしても、加入期間は1日も増えません。
増えないどころか、受給期間の1年が消化されていくだけです。受給しないという判断に意味があるのは、あくまで再就職して加入期間を積み直す前提があるときだけだと理解してください。
まとめ:失業保険を一度もらうと加入期間はリセットされる
この記事の要点を整理します。
- 失業保険を一度もらうと、それまでの雇用保険の加入期間はリセットされる
- 失われるのは加入期間であり、受給する権利ではない。回数制限はない
- リセットの分かれ目は、ハローワークで受給資格の決定を受けたかどうか
- 手続きをせず1年以内に再就職すれば、前職までの加入期間は通算される
- 2回目の受給には、自己都合なら新たに12ヶ月以上、会社都合・特定理由離職者なら6ヶ月以上の加入が必要
- 5年以内に自己都合での受給資格決定が2回以上あると、給付制限は3ヶ月になる
- 65歳未満で年金を受給中の方は年金が止まり、扶養に入る予定の方は日額基準に注意
- 転職先が決まっている、加入期間が10年や20年の区切りに近いといった場合は、受給しない判断も選択肢になる
失業保険は、次の仕事を落ち着いて探すための時間を確保する制度です。必要な状況にあるなら、迷わず使ってください。
一方で、転職先がすでに決まっているのに手続きだけ済ませてしまうと、受け取る金額よりも失うもののほうが大きくなることがあります。判断の分かれ目は「もらえるかどうか」ではなく、「今使うのが最適なタイミングかどうか」です。
会社員、フリーランス、経営者と立場を変えながらキャリアを重ねてきた立場から言えば、雇用保険の加入期間は、長い職業人生のなかで何度か訪れる転機に備えるための蓄えのようなものです。目先の数十万円と、次に本当に必要になったときの備え。この2つを天秤にかけたうえで、納得のいく選択をしていただければと思います。
