傷病手当金がもらえない8つのケース。不支給の理由と対処法を経営者が解説

病気やケガで働けなくなったとき、生活を支えてくれるのが健康保険の「傷病手当金」です。しかし、申請すれば必ず受け取れる制度ではありません。実際に「条件を満たしているつもりで申請したのに不支給通知が届いた」「退職したら振り込みが止まった」という相談は少なくありません。

この記事では、傷病手当金がもらえない8つのケースを類型別に整理したうえで、支給条件との対応関係、退職後に受給が止まる落とし穴、うつ病・適応障害で不支給になりやすいポイント、そして不支給になった後にできる行動まで解説します。

この記事でわかること

  • 傷病手当金がもらえない8つのケースと、その根拠
  • 不支給を防ぐために満たすべき4つの支給条件
  • 退職後も受け取り続けるために、退職前に確認すべきこと
  • 会社や医師が協力してくれないときの対処法
  • 不支給決定を受けた後に取れる3つの選択肢
目次

傷病手当金がもらえない8つのケース

傷病手当金が支給されない理由は、大きく分けて「そもそも制度の対象外」「支給条件を満たしていない」「他の給付と重複している」の3つに分類できます。ここでは代表的な8つのケースを順に見ていきましょう。

まずは全体像を確認してください。

#もらえないケース主な理由
1国民健康保険の加入者制度の対象外
2待期期間が完成していない支給条件を未達成
3休業中に給与が出ている生活保障の必要性がない
4業務中・通勤中のケガ労災保険の管轄
5医師が労務不能と認めない支給条件を未達成
6通算1年6か月を使い切った支給期間の上限
7他の給付と重複している給付調整
8失業保険を受給している制度の前提が矛盾

国民健康保険の加入者(自営業・フリーランス)

傷病手当金は、会社員や公務員が加入する健康保険(協会けんぽ・健康保険組合・共済組合)の給付です。市区町村が運営する国民健康保険には、傷病手当金の仕組みが原則として設けられていません。

そのため、自営業・フリーランス・個人事業主として国民健康保険に加入している方は、病気やケガで働けなくなっても傷病手当金を受け取れません。

同様に、次の立場の方も対象外です。

  • 会社員の配偶者などの被扶養者(第3号被保険者)
  • 健康保険に加入していない短時間パート・アルバイト
  • 退職後に国民健康保険へ切り替えた方(後述する継続給付の要件を満たす場合を除く)

なお、会社の役員であっても健康保険の被保険者であれば対象になります。「自分は経営側だから無理だろう」と諦めて申請していないケースは意外と多いので、まずは保険証の発行元を確認してください。

判断基準は「職業」ではなく「加入している公的医療保険の種類」です。

連続3日間の待期期間が完成していない

傷病手当金は、仕事を休んだ初日から支給されるわけではありません。連続して3日間仕事を休んだ後、4日目以降の休業日が支給対象になります。この最初の3日間を「待期期間」と呼びます。

ここでつまずくのが「連続」という条件です。休みが飛び飛びになっていると、何日休んでも待期期間は完成しません。

  • 火曜・水曜に休み、木曜に出勤、金曜にまた休んだ → 待期は未完成
  • 金曜・土曜・日曜に休んだ → 待期は完成(4日目の月曜から支給対象)

待期期間には有給・公休もカウントできる

待期期間の3日間は、給与が支払われているかどうかを問いません。有給休暇でも、土日祝日などの公休でも、会社の休業日でもカウントされます。「有給を使うと待期にならない」という誤解が広まっていますが、これは誤りです。

待期期間中の出勤はリセットの原因になる

待期期間中に半日でも出勤すると、そこで待期はリセットされます。在宅勤務中にメールを返信した、電話で業務対応をしたといった行為が就労とみなされ、待期が振り出しに戻る例もあります。療養に入ると決めたら、業務連絡は完全に遮断しておくのが安全です。

休業中に会社から給与が支払われている

傷病手当金は、休業によって失われた収入を補う制度です。したがって、休んでいる期間に会社から給与が支払われている場合、その日については原則として支給されません。

具体的には、次のような期間が該当します。

  • 有給休暇を消化している期間
  • 会社独自の休職手当・見舞金が支給されている期間
  • 賞与ではない形で給与の一部が補償されている期間

「有給を全部使い切ってから休職に入る」という進め方は、生活面では安心に見えても、傷病手当金の支給開始が後ろにずれます。有給を先に使うか、傷病手当金を先に受け取るかは、支給額の水準と有給の残日数を見比べて決めるべきポイントです。

給与が手当金より少なければ差額は支給される

給与が出ていれば必ず全額不支給になるわけではありません。支払われた給与の日額が傷病手当金の日額を下回る場合は、その差額が支給されます。

傷病手当金の日額は、次の式で計算します。

支給開始日以前の継続した12か月間の標準報酬月額を平均した額 ÷ 30日 × 3分の2

たとえば給与の6割が補償される休職制度の会社であれば、傷病手当金のおよそ3分の2との差分が埋められる形になります。会社の就業規則を確認し、休職中の給与の扱いを事前に把握しておきましょう。

業務中・通勤中のケガで労災の対象になる

傷病手当金の対象は「業務外」の病気やケガに限られます。仕事中や通勤中に負ったケガ・発症した病気は労災保険の管轄となり、休業補償給付(休業給付)から補償されます。

同一の傷病について、労災の休業補償給付と傷病手当金を重ねて受け取ることはできません。

判断に迷いやすいのは、次のようなケースです。

  • 長時間労働やハラスメントが原因のうつ病 → 労災認定される可能性がある
  • 通勤経路を大きく外れた場所での事故 → 労災にならない場合がある
  • 副業先での業務中のケガ → 副業先の労災の対象

労災申請中で結果が出ていない段階では、どちらの制度に該当するかが確定しません。手続きが宙に浮きやすい期間なので、会社の労務担当と加入する健康保険の窓口の双方に、現在の状況を早めに共有しておくことをおすすめします。

医師が労務不能と認めていない

傷病手当金の支給には、「療養のため仕事に就くことができない状態(労務不能)」であることを医師が証明する必要があります。本人が「つらくて働けない」と感じていても、申請書の医師記入欄に労務不能の記載がなければ支給されません。

不支給になりやすいのは次のようなパターンです。

  • 診断名は書かれているが、就労可否についての記載がない
  • 通院間隔が空いており、療養の実態を医師が把握できていない
  • 初診日が休業開始日より後で、休業初期の期間を証明できない
  • 軽作業や在宅勤務であれば可能、という趣旨の記載になっている

労務不能かどうかは、その方がこれまで従事していた仕事に就けるかどうかで判断されます。「他の軽い仕事ならできるはず」という理由だけで不支給になるわけではありません。医師に状況を伝える際は、実際の業務内容(勤務時間、通勤時間、業務の負荷)を具体的に共有すると、証明の精度が上がります。

支給期間の通算1年6か月を使い切った

傷病手当金の支給期間は、同一の傷病について支給開始日から通算して1年6か月です。この上限に達すると、症状が続いていても支給は終了します。

「通算」というのがポイントで、途中で職場復帰して支給が止まった期間はカウントされません。復帰して働いた3か月間は消化されず、再び休職した際に残りの期間を使えます。

復職期間は通算されないため試し出勤と両立できる

この仕組みにより、リハビリ勤務や段階的な復職に挑戦しやすくなっています。「復帰して失敗したら残りがなくなる」という心配は不要です。

ただし、次の点には注意してください。

  • 同一の傷病であることが前提(別の病気なら新たに1年6か月)
  • 退職後の継続給付では、いったん働ける状態になると再開できない
  • 支給期間が終了しても症状が続く場合は、障害年金への切り替えを検討する

支給開始からおよそ1年が経過した時点で、その先の生活設計を考え始めるのが現実的なタイミングです。

出産手当金や年金など他の給付と重複する

公的な給付は「二重に受け取らない」よう調整される仕組みになっています。同時期に他の給付を受けていると、傷病手当金が支給されない、または減額されます。

出産手当金との調整

出産手当金の支給期間と重なる場合は、出産手当金が優先されます。傷病手当金の額が出産手当金を上回るときは、その差額のみが支給されます。産前産後休業と、つわりや切迫早産による休業が連続する場合は、どの期間がどちらの給付に該当するかを整理しておきましょう。

障害厚生年金との調整

同一の傷病で障害厚生年金を受けている場合、傷病手当金は原則として支給されません。ただし、年金額の360分の1が傷病手当金の日額を下回るときは、差額が支給されます。別の傷病による障害年金であれば、調整の対象外です。

老齢退職年金との調整

退職後に継続給付を受けている方が老齢厚生年金などの受給者になった場合も、同様の調整が入ります。年金額の360分の1と傷病手当金の日額を比較し、下回る部分だけが支給される形です。

これらの調整は、後から判明して過払い分の返納を求められることがあります。年金の受給開始や出産予定が重なる場合は、申請の段階で保険者に申し出ておきましょう。

失業保険(基本手当)を受給している

傷病手当金と失業保険(雇用保険の基本手当)は、同時に受け取れません。理由は、それぞれの制度が前提とする状態が正反対だからです。

制度前提となる状態
傷病手当金病気やケガで働けない
失業保険働ける状態で求職活動をしている

退職後、ハローワークで求職の申し込みをすると「働ける状態」であると表明したことになります。この時点で傷病手当金の受給要件から外れてしまうため、順番を誤ると受け取れたはずの給付を失いかねません。

働けない状態が続いているなら、失業保険には受給期間の延長制度があります。離職日の翌日から一定期間内に手続きをすれば、傷病手当金を受け取り終えてから失業保険に切り替えられます。まず傷病手当金、回復してから失業保険という順番を意識してください。

不支給を防ぐ!傷病手当金の支給条件4つ

前章で挙げた8つのケースは、突き詰めると健康保険法が定める支給条件のどれかを満たしていない状態です。逆に言えば、次の4条件をすべて満たしていれば、傷病手当金は支給されます。

自分の状況がどこで引っかかっているのかを判断するために、条件を1つずつ確認していきましょう。

業務外の病気やケガで療養している

1つめの条件は、業務外の事由による病気やケガの療養であることです。仕事中や通勤中の傷病は労災保険の対象になるため、傷病手当金からは支給されません。

療養の範囲は、医療機関での治療に限られません。次のような場合も対象になります。

  • 自宅療養(医師の指示に基づくもの)
  • 入院を伴わない通院治療
  • 医師の指示による在宅での安静

対象となる傷病に制限はなく、うつ病や適応障害などの精神疾患、がん、生活習慣病、骨折なども含まれます。一方で、美容整形や健康診断、正常な妊娠・出産そのものは療養にあたらないため、対象外です。

療養のため仕事に就けない状態である

2つめは、療養のために労務不能であることです。この判断は、医師の意見と本人の職種・業務内容をもとに、加入している健康保険の保険者が行います。

ここで押さえておきたいのは、「まったく動けない状態」である必要はないという点です。判断の基準はあくまで、これまで従事していた業務を遂行できるかどうかにあります。

状況労務不能の判断
日常生活は送れるが、通勤や業務遂行はできない認められる可能性が高い
医師の指示で軽作業のみ在宅で行っている個別判断(申告が必要)
短時間でも通常業務に復帰している認められない

なお、療養中に軽い作業や副業を行っていた場合、後から発覚すると返納を求められることがあります。少しでも収入を伴う活動をした日は、申請書に正直に記載してください。

連続3日を含む4日以上仕事を休んでいる

3つめは、待期期間3日間を含めて4日以上仕事を休んでいることです。支給されるのは4日目以降の休業日で、最初の3日間は支給対象になりません。

待期期間の成立に関するルールを整理します。

  • 連続した3日間である必要がある
  • 有給休暇、土日祝日、会社の休業日もカウントされる
  • 給与の支払いがあっても待期期間としては成立する
  • 途中で出勤した場合はリセットされ、翌日から数え直す

待期期間の起算日は「働けなくなった日」

待期の起算日は、医師の診断日ではなく、療養のため働けなくなった日です。所定労働時間中に体調を崩して早退した場合、その日を待期の初日として扱えます。ただし、勤務終了後に受診して休みに入ったときは、翌日が初日です。

数日の差が支給開始日を左右するため、休み始めた日付と早退の有無は記録に残しておきましょう。

休業期間中に給与の支払いがない

4つめは、休業した期間について給与の支払いがないことです。給与が支払われている日は、生活保障の必要性がないと判断されます。

ただし、次のような扱いになる点は覚えておいてください。

  • 給与の日額が傷病手当金の日額より少ない場合は、差額が支給される
  • 賞与は給与の支払いに含まれないため、支給に影響しない
  • 会社の見舞金や慶弔金は、給与に該当するかどうかで判断が分かれる

有給休暇を使った日については、給与が支払われるため傷病手当金は支給されません。有給を先に消化するか、無給の休職に入って傷病手当金を受けるかは、手取り額と有給の残日数を比べて判断しましょう。生活防衛の観点では有給を温存し、復職後の通院日に充てるという選択肢もあります。

退職後に傷病手当金がもらえないケース

退職後も傷病手当金を受け取れる仕組みを「資格喪失後の継続給付」と呼びます。会社を辞めた後も、在職中と同じ傷病について支給が続く制度です。

ただし、この継続給付には在職中より厳しい条件が課されています。退職のタイミングや退職日の過ごし方を誤ると、受け取れたはずの給付が止まってしまいます。ここが最も相談の多いポイントです。

被保険者期間が継続して1年未満だった

継続給付を受けるには、退職日の前日までに、継続して1年以上の健康保険の被保険者期間が必要です。この期間には、次のものは含まれません。

  • 国民健康保険の加入期間
  • 任意継続被保険者としての期間
  • 被扶養者としての期間

転職して間もない方や、入社1年未満で休職に入った方は、この条件を満たせないことがあります。在職中の傷病手当金は被保険者期間が1年未満でも受給できますが、退職した瞬間に打ち切られる形になります。

転職者は前職との空白期間に注意

前職の健康保険と現職の健康保険が切れ目なくつながっていれば、通算して1年以上とみなされます。ただし、転職の合間に国民健康保険へ加入した期間があると、そこで継続が途切れる扱いです。

自分の被保険者期間は、年金事務所や加入している健康保険組合に問い合わせれば確認できます。退職を決断する前に、必ず確認しておきたい情報です。

退職日に出勤してしまった

継続給付では、退職日に仕事を休んでいることが条件になります。退職日に出勤してしまうと、その翌日以降の傷病手当金は支給されません。

見落とされやすいのは、次のような出勤です。

  • 最終出社日として、挨拶回りのために出社した
  • 私物の整理や貸与品の返却に行った
  • 引き継ぎ資料の説明のため、短時間だけ出社した

いずれも労務の提供とみなされ、継続給付の条件を満たさなくなる可能性があります。荷物の受け取りや書類のやり取りは、郵送や代理での対応をお願いするのが安全です。どうしても出社が必要なら、退職日より前の日程に設定しましょう。

退職日時点で待期期間が完成していない

退職日の時点で、傷病手当金を受給しているか、または受給できる状態であることが求められます。「受給できる状態」とは、労務不能であり、連続3日間の待期が完成している状態を指します。

実際にはまだ申請していなくても構いません。たとえば有給休暇で療養していて請求していなかった場合でも、退職日時点で要件を満たしていれば継続給付の対象になり得ます。

一方で、次のようなケースは条件を満たしません。

  • 退職日の直前まで勤務し、退職後に体調を崩した
  • 退職日を含めて休みが3日に届いていない
  • 有給消化中に出勤日が混在し、連続3日が取れていない

退職日から逆算して、待期の3日間が確実に確保されているかを確認してください。

退職後に一度「働ける状態」になった

在職中の傷病手当金は、復職して支給が止まっても、再び働けなくなれば残りの期間内で再開できます。しかし、退職後の継続給付は扱いが異なります。

退職後にいったん働ける状態になると、その時点で支給は終了し、同じ病気で再び働けなくなっても再開されません。通算1年6か月の期間が残っていても同じです。

実務上、次の行動が「働ける状態」とみなされる可能性があります。

  • 体調が上向いたため、短時間のアルバイトを始めた
  • ハローワークで求職の申し込みをした
  • 転職活動を本格的に再開した

とくにハローワークでの求職申込みは、働ける状態であることが前提の手続きです。傷病手当金を受給中に手続きを進めてしまう方が少なくないため、失業保険は受給期間の延長制度を使い、回復してから切り替えるのが基本です。

退職後に発症した病気やケガである

継続給付は、あくまで在職中の傷病に対する給付が続く制度です。退職後に新たに発症した病気やケガは対象になりません。

判断の目安を整理します。

状況継続給付の可否
在職中のうつ病が退職後も継続対象になる
退職後に別の病気を発症対象外
在職中の傷病が悪化対象になる
在職中の傷病がいったん治癒し、再発個別判断

退職後は健康保険の被保険者ではなくなるため、新たな傷病について申請する先がありません。国民健康保険や任意継続に切り替えても、そこから傷病手当金が支給されることはない点に注意してください。

うつ病・適応障害でもらえないケースと注意点

精神疾患は、外見から症状の程度が判断しにくいため、身体の病気に比べて審査が慎重になりやすい分野です。実際に「うつ病で休職したのに不支給だった」という相談は多く寄せられます。

制度上、精神疾患が不利に扱われるわけではありません。不支給の多くは、書類の記載内容や療養中の行動が原因です。ここでは、つまずきやすい4つのポイントを解説します。

診断書に労務不能の記載がない

精神科・心療内科の診断書には、病名と治療方針は書かれていても、就労可否についての踏み込んだ記載がないことがあります。この状態では、保険者は労務不能と判断できません。

申請書の医師記入欄には、次の内容が具体的に書かれている必要があります。

  • 現在の症状と、それによって業務が遂行できない理由
  • 労務不能と判断した期間
  • 診察日と療養の経過

医師に伝えるべき情報を整理しておく

医師は診察室での様子しか見ていません。実際の業務内容や生活の困りごとを伝えなければ、労務不能の根拠を書きようがないのです。受診時には、次の情報をメモにまとめて持参すると伝わりやすくなります。

  • 職種と具体的な業務内容(会議、電話対応、運転の有無など)
  • 勤務時間と通勤時間
  • 症状によってできなくなったこと(集中力が続かない、人と話せないなど)
  • 睡眠、食事、外出の状況

通院や治療の実績が乏しい

療養している事実を示すには、継続的な通院実績が欠かせません。初診から数か月間受診していない、あるいは休業期間中の受診が1回だけといった状況では、療養の実態を証明できません。

不支給を避けるためのポイントは次のとおりです。

  • 医師の指示に従い、定められた間隔で受診を続ける
  • 体調が悪く外出できない場合も、オンライン診療などで記録を残す
  • 転院した場合は、前医の診療情報提供書を用意する

申請は1か月ごとに行うのが一般的です。申請期間中に受診がないと、その期間の証明が難しくなります。

療養中のアルバイトや副業がある

労務不能とは、収入を得るための労務全般に就けない状態を指します。休職中に別の仕事をしていれば、その日については労務不能とみなされません。

次のような行為が該当します。

  • 短時間のアルバイト
  • 業務委託での在宅ワーク
  • 継続的な収益を伴う個人事業

一方で、リハビリの一環として医師が認めた軽作業や、収益を目的としないボランティア、趣味の範囲での活動は、直ちに不支給とはなりません。判断に迷う場合は自己判断せず、主治医と保険者に相談してください。

無申告で働いた分が後から判明すると、支給済みの手当金の返納を求められます。

ハローワークで求職申込みをしている

退職後、生活費の不安から失業保険の手続きを進めてしまう方がいます。しかし、求職の申し込みは「働ける状態である」という表明にあたり、傷病手当金の労務不能という前提と矛盾します。

正しい順番は次のとおりです。

  1. 離職後、働けない状態が続いていることを確認する
  2. ハローワークで失業保険の受給期間延長を申請する
  3. 傷病手当金を受給しながら療養に専念する
  4. 主治医から就労可能の判断を得る
  5. 延長を解除し、失業保険の受給手続きに進む

受給期間の延長には申請期限があります。離職票が届いたら、まず延長手続きの要否を確認しましょう。

SNSや転職サイトの更新にも注意

療養中の行動が直接的に審査対象になるわけではありませんが、転職サイトへの登録や活発なSNS投稿が、就労可能と受け取られる材料になることはあります。回復途上での情報収集は問題ないものの、面接に進むなど実際の就職活動に踏み込む段階では、傷病手当金の受給要件から外れると考えてください。

会社や医師が申請に協力してくれないときの対処法

傷病手当金の支給申請書は、本人・事業主・医師の3者が記入して完成します。どこか1か所でも欠けると申請できないため、「会社が書いてくれない」「医師が労務不能と書いてくれない」という状態で手続きが止まってしまうことがあります。

ただし、協力を得られないことは申請を諦める理由にはなりません。それぞれの場合の進め方を確認しておきましょう。

会社が事業主証明を書いてくれない場合

事業主記入欄には、勤務状況と給与の支払い状況を記載します。会社にはこの証明に応じる義務があり、正当な理由なく拒むことは認められていません。

それでも対応してもらえないときは、次の順で進めます。

  1. 人事・労務担当者に、記入が必要な理由と提出期限を書面やメールで依頼する
  2. 会社の顧問社会保険労務士がいる場合は、そちらに相談する
  3. 加入している健康保険の保険者(協会けんぽの支部・健康保険組合)に事情を伝える
  4. 改善しない場合は、労働基準監督署や年金事務所に相談する

事業主証明がなくても申請できる場合がある

保険者によっては、会社が証明に応じない事情を記した申立書を添えることで、事業主記入欄が空欄のままでも受け付けてもらえることがあります。給与明細やタイムカードの写しなど、勤務実態と給与の支払い状況がわかる資料を添付すると審査が進みやすくなります。

まずは保険者に電話し、「会社が証明を拒んでいる」と具体的に伝えて、必要な代替書類を確認してください。

医師が労務不能と書いてくれない場合

医師が労務不能の証明を渋る背景には、いくつかの理由があります。原因によって取るべき対応が変わります。

医師の反応考えられる理由対応
症状が軽いと判断された困りごとが伝わっていない業務内容と生活状況を具体的に伝える
判断材料が足りないと言われた受診回数が少ない通院を重ねて経過を記録してもらう
就労可能と診断された実際に回復している復職や失業保険への切り替えを検討する
書類の記入自体を断られた診療方針や事務負担セカンドオピニオンや転院を検討する

医師との認識のずれは、伝え方で解消できる場合が少なくありません。診察時間は限られているため、業務内容と症状の影響をまとめたメモを渡すのが現実的です。

一方で、転院すると初診からのやり直しになり、休業開始時期の証明が難しくなることがあります。転院を選ぶ場合は、前医から診療情報提供書を受け取っておきましょう。

退職済みで会社と連絡が取れない場合

退職後の継続給付では、退職日以降の期間について事業主証明が不要になります。必要なのは、本人記入欄と医師記入欄です。

そのため、退職後の分については会社とのやり取りなしで申請を進められます。注意が必要なのは、在職中の期間が申請に含まれる場合です。この場合は退職前の勤務状況について証明が必要になるため、退職前に記入を済ませておくのが理想です。

会社が倒産した、担当者と連絡が取れないといった事情があるときは、保険者に相談してください。事情を説明する申立書と、給与明細や離職票などの資料で代替できることがあります。

不支給決定を受けた後にできる3つの行動

不支給決定通知が届いても、そこで終わりではありません。理由によっては覆せる余地がありますし、他の制度に切り替えることで生活を維持できる場合もあります。落ち着いて次の3つを順に検討しましょう。

不支給理由を保険者に確認する

まず取り組むべきは、不支給の理由を正確に把握することです。通知書には理由が簡潔にしか書かれていないことが多いため、加入している健康保険の窓口に電話し、次の点を確認してください。

  • どの支給条件を満たしていないと判断されたのか
  • 追加の資料を提出すれば再検討の余地があるか
  • 申請期間の一部だけが不支給なのか、全期間なのか

理由によっては、書類の不備や記載漏れが原因というケースもあります。その場合は、資料を整えて再申請すれば支給されることがあります。

振り込まれない原因が審査中なだけのこともある

不支給ではなく、単に審査に時間がかかっているだけという場合も少なくありません。申請から支給決定までは、書類に不備がなくても一定の期間を要します。とくに初回申請や、事業主証明の内容に確認が必要なケースでは長引きがちです。

通知が届いていない段階で振り込みがないときは、まず審査の進捗を問い合わせてみてください。

審査請求で決定を争う

不支給決定に納得できない場合は、社会保険審査官に対して審査請求ができます。医師の意見書や勤務実態の資料を追加し、労務不能であったことを主張する手続きです。

審査請求の期限は決定を知った日から3か月

審査請求には期限があります。原則として、不支給の決定があったことを知った日の翌日から3か月以内です。この期限を過ぎると、内容の当否にかかわらず受け付けてもらえません。

審査官の決定にも不服がある場合は、その後に社会保険審査会への再審査請求、さらに裁判所への訴訟という段階が用意されています。

手続きは本人でも行えますが、医学的な主張が必要になる場面もあります。争点が複雑なときは、社会保険労務士など専門家への相談を検討してください。

障害年金や失業保険への切り替えを検討する

傷病手当金が受けられない、あるいは支給期間を使い切ったとしても、利用できる制度は他にもあります。

障害年金

一定の障害の状態が続いている場合、障害基礎年金・障害厚生年金の対象になる可能性があります。初診日から1年6か月を経過した時点が原則の請求時期にあたるため、傷病手当金の支給終了と重なりやすいタイミングです。うつ病などの精神疾患も対象になります。

失業保険(基本手当)

働ける状態まで回復したら、失業保険に切り替えられます。療養中に受給期間の延長手続きをしておけば、離職から時間が経っていても受給できます。

自立支援医療・傷病手当(雇用保険)

精神疾患の通院費を軽減する自立支援医療制度や、失業保険の受給資格者が病気で求職活動できない期間を対象とする雇用保険の傷病手当など、状況に応じた制度があります。名称が似ていますが、健康保険の傷病手当金とは別の制度です。

生活の相談窓口

収入が途絶えて生活が立ち行かないときは、市区町村の生活困窮者自立支援窓口や社会福祉協議会の貸付制度も選択肢になります。

まとめ:傷病手当金がもらえないケースを知り不支給を防ごう

傷病手当金がもらえないケースを、あらためて整理します。

  • 国民健康保険の加入者は制度の対象外
  • 連続3日間の待期期間が完成していない
  • 休業中に給与が支払われている
  • 業務中・通勤中の傷病で労災の対象になる
  • 医師が労務不能と認めていない
  • 支給期間の通算1年6か月を使い切った
  • 出産手当金や年金など他の給付と重複している
  • 失業保険を受給している

退職を挟む場合は、被保険者期間1年以上、退職日に出勤しないこと、退職日時点で待期が完成していることが加わります。とくに退職日の挨拶出社は、本人に自覚がないまま受給資格を失う典型例です。

私はこれまで、会社員として休職者を見送る側にも、経営者として送り出す側にも立ってきました。そのうえで感じるのは、傷病手当金は「制度を知っているかどうか」より、「休み始める前と退職する前に、何を確認しておいたか」で結果が分かれる制度だということです。

体調が悪いときほど、手続きの細部まで気を配るのは難しいものです。それでも、次の3点だけは押さえておいてください。

  1. 休み始めたら、連続3日を確保して待期を完成させる
  2. 退職を考えるなら、被保険者期間と退職日の予定を先に確認する
  3. 判断に迷ったら、自己判断せず加入している健康保険の窓口に相談する

不支給通知が届いた場合も、理由の確認と審査請求という道が残されています。療養に専念できる環境を整えるためにも、使える制度は確実に活用していきましょう。

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この記事を書いた人

木本旭洋のアバター 木本旭洋 株式会社イールドマーケティング代表取締役

株式会社イールドマーケティング代表。大手広告代理店でアカウントプランナー、スタートアップで広告部門のマネージャーを経験後、2022年に当社を創業。AI/Webマーケティング支援を得意としている。会社員(大手とスタートアップ)/フリーランス/経営者/採用責任者すべて経験しておりキャリア情報も発信。

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